朝日新聞アピタルニユースの1月2日記事より抜粋

 O(オー)157に感染し、腎不全や膵炎(すいえん)などに見舞われた埼玉県の女性(40)の次男(6)は2008年暮れ、5カ月の入院生活を終えて自宅に戻った。退院後もふつうの食事はほとんどとれず、鼻から胃に入れた管による栄養補給に頼っていた。


 09年7月。4歳になっていた次男はいきなり嘔吐(おうと)し、下痢になった。吐きすぎて、胃に入れた管までが抜けるほどだった。独協医大越谷病院に9日間入院し、点滴治療で回復した。


 しかし8月上旬に再び、嘔吐を繰り返した。うんちの出が極端に悪いため、腸が詰まっている可能性が指摘された。X線で調べると、おなかの上部を横に走る横行結腸が、直径15センチにも広がっていた。


 詳しい検査をした小児外科の藤野順子(ふじの・じゅんこ)医師は「1年前に大腸炎を起こした部分が詰まっているのかもしれない」と考え、女性に手術を勧めた。


 「腸の病気は半年前に治ったはずなのに」。納得できない女性は、決心がつかなかった。長期入院になると、小1の兄(8)の夏休みがまたつぶれる。それも可哀想だ。しかし結局、「いつまでも同じことの繰り返しですよ」という藤野さんらの熱心な説明に折れた。


 手術は9月上旬。1年前に大腸炎になった部分は石のように硬く、つまようじが通るすきましかなかった。詰まった腸を切り取り、つなぎ直した。


 手術後、次男はふつうに口から食事ができるようになった。脳や手足に後遺症が残ったものの体重は増え、今春、念願の小学生になった。女性は「病院や幼稚園、小学校の方々の支援のおかげです」と感謝する。


 それでも女性は、つい3年半前のことを思い返してしまう。


 当時3歳4カ月だった次男はまだ、パンツ型のおむつをつけていた。後で気がついたが、このころ1人でパンツをはきかえ、汚れたパンツを汚物専用のゴミ箱に捨てることを覚えたようだった。このとき次男は、ゴミ箱に捨てられた長男の下痢の汚物に触れ、O157に感染したのだろう。盲点だった。


 「そのときに戻りたいと何度悔やんだことか」。長男への感染経路は確定していないが、一家4人はこの3年半、一度も焼き肉屋で食事をしていない。